「今夜ここにみなさんに集まっていただいたのは、他でもない、27年前に起こったあの忌まわしき事件『村櫛舘山寺道路の惨劇』の謎を解明しましたので、その驚くべき真相を、ここで明らかにしたいと思うのです。申し遅れましたが、私、名探偵H.R.と申します。これまで幾多の難事件を解明した事はありませんが、推理小説は何冊も読んで参りました。そんな私のおすすめは、やはり綾辻行人先生の『時計館の殺人』京極夏彦先生の『狂骨の夢』そして島田荘司先生の『アトポス』です。異議は認めない。さて、みなさん、これから明らかにする『村櫛舘山寺道路の惨劇』この事件は、戦後最大の難事件として、人々の記憶に新しいと思うのですが、ここで改めて事件の内容をおさらいしてみましょう。事件は27年前の冬に起こります。当時ヘンタイライダーであったkeiichi_w氏が、『惨劇が待っていた‥‥』と謎のメッセージを残して跡形もなく消え失せてしまった、そして、それ以来摩訶不思議な現象が起こるようになった、という、いわゆる怪事件なのです。これまで幾人もの名探偵がこの謎の解明に挑戦し、敗れ去ってきましたが、この私、名探偵H.R.は違います。私はこの事件の核心をつかんでいる。まず私は、この事件の解く鍵となるのは湖西にあると直感し、湖西を訪れました。そして、そこで、事件当時のkeiichi_w氏の最後の姿を見た目撃者の娘と話をする事が出来ました。彼女は当時、七十一商店で丁稚奉公しており、そこでkeiichi_w氏が買い物をしたのです。買ったものはあんまんです。彼女は当時を振り返ってこう証言してます」
七十一商店の娘、由里子(仮名)の証言
「ウフフッ、あのね、変なね、おじさんがあんまん買ってね、バイビー。でね、よくわかんなーい、ウフフッ(ペロッと舌を出す)忘れちゃった、ウフフッ」
「‥‥えー、とにかく、この証言から、keiichi_w氏が、かなりのコーフン状態にあったと思われます。私が推理するに、何かとんでもない発見をしたのだと。その後私は、失踪直前の最後の姿を目撃したと思われる、畑仕事中の老人にも話を聞く事が出来ました。」
農業の老人、牛若右衛門(仮名)の証言
「おまーさんらあげなことごわいちゅうたらきゅうきゅうでげんも、ほらあそやさけどもいかならっちゃらだべ。うんにゃなら、どわいちゅうるけるどんせんばたくきだべが」
「‥‥えー、とにかくkeiichi_w氏がかなり慌てていた様子が、みなさんにもわかっていただけると思いますが、なぜ、keiichi_w氏がこれほどまでに慌てなければいけないのか、この事件の重要なポイントだと確信しています。そして、この次に、私はある若者からとても貴重な情報を入手しました。」
地元バイカーの若者、自称HIROYUKI(笑)の証言
「オレっすか、無職だし高卒だし、つーか、馬鹿だからわかんないっす。おっさんも、アレっすか、あの事件つーか、でもオレ意味わかんねーっすよ、とりあえずジョーってヤツ、あぶねーってうわさだし。」
「このジョーなる人物、いったいこの人物が何者なのか、私はその正体を突き止めるべくあちこちを調べ回ったのです。そして、このジョーと呼ばれる男が、じつはホワイトライダーズの一員である事を突き止めました。そう、みなさんもご存知でしょう、あの第2次世界大戦後、GHQによって粛々と進められた財閥解体、その陰で、マッカーサーとの裏取引を行い生き延びた、日本のウラのウラでこれまであらゆる事件を操ってきたあの組織です。一説には2.26事件も彼らの陰謀と言われています。また、坂本龍馬暗殺にも一枚噛んでいるとも言われています。その恐るべき組織の男、ジョーに、keiichi_w氏は執拗に追いかけられていたのではないか、私はそう推理します。ここで問題になるのが、なぜ、keiichi_w氏が追われる事にならねばならんのか、その謎を解く鍵は舘山寺温泉にありました。そう、あのかんさんじ堀江の庄です。あの旅館には誰にも知られてはならない、創業600年の間、門外無用の場所がありました。それが6階からさらに上に上がったところにある温泉です。その温泉は、誰にも知られてはならぬ温泉だったのです。しかし、温泉ライダーであったkeiichi_w氏は、その秘密を知ってしまった。だから秘密組織ホワイトライダーズに追われる事になり、そして、あの村櫛舘山寺道路の惨劇に至る事になるのです。あ、失踪事件なのに、なぜ惨劇なのかって質問はなしね。もうここまでお話しすればお分かりでしょう。そう、真犯人はこの中にいる!」(おおおっ、という観客のざわめき)
「‥‥そこまでだ、名探偵H.R.」
「うっ、誰だ、お前は。」
「私の名は名探偵SS、ちなみにSSってのはスーパースローね、スーパースカタンじゃないよ。私はこの事件の真相を明らかにする為に来た。」
「それはもう私がやっている。君は引っ込んでいてもらおう。」
「そうはいかないな。なぜなら、名探偵を自称する君がこれまで話した話は全てデタラメだからだ!」(おお〜っと観客から声が上がる)
「何がでたらめだ、ケチをつけるのか。私の推理が素晴らしいからケチをつけるのか。」
「素晴らしい? なにを戯言を。まず最初の七十一商店の娘の証言、あれは単にあんまんがうまくて驚いたいただけの事。農業の老人の証言、あれは単に気持ちいい快走路で飛ばしていただけの事、最後のジョー、ホワイトライダースってのは、何のことか、私の口から言いましょうか、名探偵H.R.さん、いや、こう呼んだ方がいいですかな‥‥keiichi_wさん」(おおおおーうおーっと観客から叫び声が上がる)
「ううっ、‥‥なぜわかったんだ、オレがkeiichi_wだと」
「なーに、簡単な推理ですよ。HR=HENTAI RIDER=keiichi_w」
「くっそー絶対にわからんと思ったのになあ。」
「デラ簡単じゃん」
「ふふっふ、オレの正体を見抜くとは貴様なかなかやるな。その通り、オレの正体は、『村櫛舘山寺道路の惨劇』の張本人、keiichi_wだ。」
「正体を現したな!」
「しかし、名探偵SS、貴様もここまで事件の内情を知っているという事は、ひょっとして貴様の正体も」
「その通り、私もまたkeiichi_wだ。」
「なんと」
「私は善のkeiichi_w」
「オレは悪のkeiichi_w」
「これは、keiichi_wの深層心理二重人格戦争という事になりますかな。」
「なんか映画『アイデンティティー(2003年米映画)』のパクリっぽいじゃん。」
「まあ、そうなるかも。なんともマイナーでマニアックな映画をパクったもんだが。」
「オレは悪だからパクリは大好きさ。だいたい、keiichi_wはパクリ専門だからな。ということで、悪のkeiichi_wこそが、真のkeiichi_wだ。」
「そんな事を私が許すと思うか。」
「許すも何も、だいたい日頃のkeiichi_wを見てればわかるだろ。残業も休日出勤もなくなって給料激減なのに相変わらずの無駄遣い。今年も『無駄遣いしません』なんて宣言しておいて、その舌の根も乾かんうちにアレコレ買ってるし。なんか問題が起きたら、すぐ『まっちゃんのせいだ、ボクは悪くない』って人のせいにしてばっかりだし。新年早々定期券を落としても、日頃の行いがいい人は坊さんに拾われて戻ってくるが、keiichi_wが新年早々落としたアレは、一向に戻って来る気配なしだ。日頃の行いが悪いから戻ってこんのだ。」
「そんな事はない。keiichi_wにだって、良いところはある。」
「じゃあ言ってみろよ。」
「‥‥えーと‥‥うーんと‥‥。」
「ほら、ねーだろ。そういうヤツなんだよ、keiichi_wってヤツはよ。」
「ちょっと待て、今考えるから、何かあるはずだ‥‥。」
「おらおら、早くしな。」
「うーむ、くそー」
「答えられないようだな。ということで、悪のkeiichi_wこそが、真のkeiichi_wだ。」
「それは違う。」
「違わん。話はもうついたんだ。」
「むう‥‥こうなったらポカッ!」
「いてっ! 何すんだこのヤロー。」
「最大限の平和的努力をしてきたが、残念ながら話し合いで解決しないようだ。仕方がないが武力行使させてもらう。」
「武力行使って、お前それでも善のkeiichi_wか!?」
「うるさい、国際法で認められている正式な外交手段だポカスカ」
「いてっ、いててっ、暴力反対!」
「これはルールに基づいた攻撃である。私は法律に反した行為はいっさいしていない。ポカスカ」
「いてて、何だそのお役所みたいな形式張った物言いは、こうなったらこっちだってポカスカ」
「いてっ、やったなクソ、ボカスカボカ」
「バキドテグシャ」
「ガシャグシャ、ベキボキ」
「ドカンバカン、ギュルルル、ピシャッー」
「ベロロンドロロン、グドバガジャガリン」
「ベシャ、ギュルルル、グサーッ」
「アチャッ、ケハーッ」
「ハイヤー、ハイッ、オアタアウ」
「ヒデブ、タワバ、アエオワ」
「ヒュインヒュイン、ビシャッ、バキッ、ググッ」
「なんか、連載末期の天才バカボンみたいになってきた。」
「赤塚不二夫先生の苦悩の日々がわかるような気がする。」
「ドドンバドドンバ」
「ちなみに、作家の古橋健二先生の原稿枚数稼ぎもこの方法である。」
「ペシッ、ゴーン、ズーン、バーン」
「フンガー、フンガー」
「いててて、参った、もう参った。」
「がははははっ、見たか、オレの勝ちだ。正義は必ず勝つ!」
「ちょっと待て、それはオレの台詞だ。オレが善のkeiichi_wで、お前は悪のkeiichi_w」
「あ、ごめん、間違えた。台詞の順番がわからんくなっちまったもんでさ。」
「じゃあもう一度いくよ。」
「ペシッ、ゴーン、ズーン、バーン」
「フンガー、フンガー」
「いててて、参った、もう参った。」
「がははははっ、見たか、オレの勝ちだ。正義は必ず勝つ!」
「だから違うって、それはオレの台詞。オレが善のkeiichi_wで、お前は悪のkeiichi_w」
「あ、ごめん、間違えた。台詞の順番がわからんくなっちまったもんでさ。」
「じゃあもう一度いくよ。」
「ペシッ、ゴーン、ズーン、バーン」
「フンガー、フンガー」
「いててて、参った、もう参った。」
「がはは‥‥あれ、また間違ってるよ。っていうか、お前が善のくせに参ったとか言うからいかんのじゃん。」
「あ、そうか、それもそうだな。ごめんごめん、じゃあもう一回やろう。」
「ペシッ、ゴーン、ズーン、バーン」
「フンガー、フンガー」
「いててて、参った、もう参った。」
「がははははっ、見たか、私の勝ちだ。正義は必ず勝つ!」
「くっそー、暴力で勝っておきながら、何が善のkeiichi_wだ。」
「これは正義の暴力だ。」
「『いいか、暴力には善も悪もない、ただ暴力さ』と朴舜臣も言ってるぞ。」
「どうとでも言え、私の勝ちだ。さあ、全てをここで告白するのだ。おのれの悪行を、この忌まわしい惨劇の真相を、ここで全て告白するのだ。」
「わたくしが初めて紹介所の所長さんから最中をいただいたのは、希衣さんと同じ歳の頃でした。その一年前、近所の駄菓子屋で富くじに溺れそうになっている私を救おうとして大好きな父が小遣いをくれました。それ以来、母は無駄遣いをする私に厳しくなりました。私は勉強を必死にがんばったりはせず、習い事は嫌になって途中でやめたので、全然ほめてもらえませんでした。『お前のその頭が悪いんだ、お前の頭がまわりの者を不幸にする』と何度も何度も責められました。それでも当時、学校で教師をしていた先生に励まされ、一生懸命勉強したりしませんでした。いつかこんな自分でも入学できる学校があると信じていました。そして、某県立高校に入学しました。卒業も出来ました。就職もできました。給料がもらえる仕事があるだけで他には何もできせんでした。そんなとき、悪友が家に来るようになりました。お前もバイクに乗れと言い出し、つるむようになりました。会社は良い会社なのでそんな事とは夢にも思わず、バイク通勤歓迎でした。それいいことに、悪友は中型二輪との関係を迫り、私は免許を取ってツーリング行為をはじめました。『限定解除しないとFZ750に乗れない』と言いました。排気量が違うとはいえ、同じ二輪だし、私は何とか自分の技量に訴えようとしました。何度も何度も平針試験を受けました。しかし駄目でした。やがて大型二輪の免許が取れました。『二度と来ないぞ』と平針の試験会場を後にした私は歓喜し、『俺を誘惑したお前が悪いんだ』とCBR750Superareoを買いました。燃えさかるツーリング魂はやがてCBR600RRになりました。迫り来るカーブの中『keiichi_w飛ばせ、keiichi_w飛ばせ』という声が聞こえました。私はカーブの中に飛び込もうとしました。でも白バイの人に止められました。そして、私がこの世で一番大切だった無事故無違反は無くなりました。そんな私とバイク談義に花を咲かせて白バイの人は青切符を用意しました。24キロオーバー反則金12000円。それを聞いた妻や父は私を責めました『おまえが悪い、おまえのその頭が悪い、結局、頭が悪い。もう謝らなくていい、何もしなくていい、だた、反則金は自分で払え』と。こうして、私の人生から、ゴールド免許が、前回の事故違反からは無事故無違反の経歴が、楽しいツーリングの思い出が、帰り道クシタニセールでなんか買ったろうかという下心が、iPhone導入予定が、e-HEARTのグローブ購入計画が、ヘソクリが消えました。私の事はすべてお話ししましたので‥‥お約束通り、お暇をいただきます。」
「‥‥みなさん、お聞きになりましたか。これが事件の真相です。」
「オイ、家政婦のミタのパクリはスルーか。」
(サイレンの音とパトカーが大勢やってくる)
「おお、金田一先生!」
「等々力警部、遅かったじゃないですか。」
「すまん、道路が渋滞していた。で、犯人は‥‥。」
「やはり、H.R.でしたよ。」
「そうか、‥‥名探偵H.R.逮捕状が出ている。逮捕する。」(ガチャ手錠がかけられる音)
ちゃーららー、ちゃららー、ちゃららららーちゃらららーらーらー(太陽に吠えろの最後にかかる曲)
「これで、長年の謎だった『村櫛舘山寺道路の惨劇』事件は終結、ですね。」
「今回も金田一先生のお世話になりっぱなしでしたなあ。」
「いえいえ、そんな事はないですよ。」
「しかし、これで悪のkeiichi_wも刑務所行きで、すべて安泰ですな。」
「‥‥。」
「金田一先生?」
「‥‥ふっふっふ、そうかな。」
「そ、その声は、ま、まさかお前は!」
「その通り! このオレ様こそが悪のkeiichi_wだ!」
「で、では今逮捕され連行されたkeiichi_wは‥‥。」
「あれが善のkeiichi_wさ! このオレ様が簡単に捕まる訳ないだろう!」
「で、でもいったいどうやって、いつの間に入れ替わったんだ、あ、ま、まさか。」
「ふっふっふ、気がついたか。台詞が入れ替わったあの時、本人も入れ替わったのさ。」
「くっそう、だがしかし、このまま済むと思ってるのか!」
「思ってないぜ。これからが本番だぜ。こっちはCBR600RRの生涯無事故無違反の夢は藻屑と消えて、何も失うモノはないんでえ。オレ様に怖いもんはねえぜ。まずはiPhone導入だぜ。そしてクシタニ名東のセールの便乗値下げ品を物色して何か買ったるぜ。それから、土岐プレミアムアウトレットでNikonセールでD700ボディとAF-S NIKKOR 24mm f/1.4G EDを買ったるぜ。」
「あわわ、もう駄目だ、完全に暴走モードだ。誰かヤツを止めてくれえ。」
「わっはっはっは、誰もオレを止められないぜ、オレにはもう怖い者なんかないんだ!」
「だれが怖いもんなんかないのかしら?」
「あ、まっちゃん。」
「だれが、怖い者なんかない、なのかしら?」
「あ、ああ、いや、その‥‥。」
「怖い者なんかいないの? ふうん、そうなの。」
「ひえええーすいませんでした。ごめんなさい、許してください。」
「まったく、なにやってるのよ。アンタさ、休日出勤も残業もなしで、年収激減確定なのよ。それなのに、バイク何台も持ってられるのは誰のおかげだと思ってんの?」
「あわわ、まっちゃんのおかげです。」
「わかってんなら、何なのよその態度。」
「あ、あれはその、勢いでなっただけで、本心は違います。」
「なんかいろいろ買う買う言ってたけど。」
「え、いえ、何にも買わないですよ。ボクは良い子です。」
「ならいいわ。あとでゴミ出しといてね。」
「ハイ、わかりました。」
「‥‥警部、簡単に暴走モードがとまりましたよ。」
「そうだな。これで事態は収拾したようだな。よかった。」
「どうせなら、最初からあの人に頼めばよかったんじゃないですか?」
「ああ、そうか、そうだったな。そうすればよかったな。」
「長々と書き綴ったこのテキスト、意味ないじゃん。」
「それが人生というもんだ。」
こうして、27年前に起きた恐ろしくも忌まわしい事件は終わった。しかし、この終結は表面上の事に過ぎない。そう、誰も指摘しなかったが、ホワイトライダーズのジョー、彼の事は結局何もわからずじまいだ。彼は今も、どこかで暗躍している。まさに、今、バイクを走られせているあなた、あなたの真後ろに、彼はいるのかも知れない。人知れず、気配も感じさせずに近づいてくる彼に、気がついた時はもう遅い。あなたは彼の餌食になっているのだ。そうならないように、くれぐれも、バックミラーに気をつける事だ‥‥‥。
完
<2012年1月22日書き下ろし作品>