近くて遠い富山はほたるいか (中編)

 一瞬内が起きたのか全然わからなかったが、大変な状態になっていることだけは確かだった。口の中のますのすしを吐き出し、バックミラーで確認すると卒倒するくらい血が出てきて、まるでそれは・・・「沖田、てめえ」「ふっふっふ、見られてしまったか、ご覧の通りオレ派結核にかかっている。公道グランプリは命をかける価値がある」だった。(わかる人は同世代だね。)冗談言ってる場合か。血が止まらんのでティッシュをちぎって口の中に突っ込んで止血した。くそう、もう何も食えない。念のためますのすしを調べたが、特に異物がある訳でもなく、どうやらへたくそな破り方をしたビニールに問題があったようで。ああ、悲し。

 散々なコンビニを後にして、チューリップ公園に向かうが、なんと、この件で精神がメルトダウンしてしまったようで、場所が全然分からない上に、どう考えても通過している。どうしよう。

 すると、国道の横にチューリップのお花畑が見えた。まるで夢遊病者の様にふらふらと曲がってしまったら、おお、結構良いじゃないの、きれいなチューリップが満開御礼状態。色もよりどりみどりです。メルトダウンを回避したようで、バイクを止めるとカメラを取り出し、写真を撮りまくる。すると、軽トラが3台来て、年季の入った服装のおばあ樣方が現れた。さっそうとチューリップの花摘みを始めた。おお、朝の情報番組で紹介されそうな作業を生で見ることが出来るとは、何と言う幸運、ビデオを持ってくれば良かった。

 写真を撮っていたら、畑の横を流れる水路(水がなみなみとあふれ流れもすごく速い)に棒切れが立った状態で流れてきた。なんで棒が立って流れるのだろうかと見ていると、その棒は揺れているではないか。ますますあやしい、そして近くに来てその正体がハッキリして全身が硬直した。

 へへへへ、蛇だぁーーーー!!

 蛇が水路に落ちて、抜け出すために必死こいて体を立てて引っかかるところを探してもがいてるのだ。この世のものとは思えない光景に脳波が停止した状態でいると、こともあろうか、目の前で脱出しやがった。

 げげー足元に蛇、最悪。

 しかし、蛇もこの脱出劇に力を使い尽くしたのか、肩で息をしているようでしばらく動かない。が、やがて静かに草の中に消えていってくれた。

 あー良かった。生きた心地しなかったよ。

 急いで現場を脱出し、チュ−リップ畑をさらに奥へ行くと菜の花畑もあるし、また色違いのチューリップ畑もあるし、また止まって写真を一生懸命撮った。他のところでもカメラマンが何人かいて、同じように無我夢中で撮影していた。ニコン持ってきて良かった。

 1時間以上チューリップ畑にいたが、そろそろ富山市の方に行った方が良いか。渋滞があるとチェックインの時間に間に合わなくなるからな。チューリップ畑と別れを惜しみつつ、国道に戻って富山市を目指す。

 しかし、道路の快調なこと。渋滞もなくスムーズに進み、予想以上に早く着きそうだ。うーむ、と思っていたら海王丸の看板がみえた。あ、そうだ、海王丸の公園があるはずだ。ちょっと見ていこうということになり、予定外だが道を曲がった。

 案内標識に沿ってどんどん走っていくと、富山港に出た。そして巨大な帆船が現れた。海王丸だ。駐車場は無料で、まあまあ混んでいたが近いところに停めることが出来たのでカメラを持って行ってみた。港は魚釣り禁止て、それを知ってるからか、よくわからない魚がぴょんぴょん水面を跳ねている。海王丸は帆は張っていないものの立派な勇姿だ。なかに入るにはお金がいるようで、外から見てもすごい混雑してるのがわかったので入るのはやめた。お土産物を見たがろくなものがなかった。会場ではフリーマーケットをやっていた。ラジコンのレースもやっていて、操縦している人はいい歳こいたおっさんばかりだった。道楽親父ってことだな。人のことは言えないけどさ。

 海王丸パークを後にして、ホテルに向かう。8号線をひた走り、富山駅の看板で曲がってすぐだった。駅前でバイクを止め、ホテルの位置を確認する。地元の男性3人組に声をかけられた。若い頃俺も乗ってたよとのことで。うーん、同じ歳くらいの人にそう言われるとちょっと・・・。

 ホテルに行く。看板がちらと見えて、ちょっとやばそうだった。場末のラブホテルみたいな看板だ。ホテルの前に着いて、うーむ、やってしまったかもと思った。はっきりいって古いぼろい。立ちすくんでいても仕方がないのでチェックインする。バイクはピロティの駐車場に入れたが、何とか大学テニス部OB会が歓迎になっていたから、結構車来るんじゃないかなあ。案の定、後で移動させられた。

 チェックインして鍵をもらって部屋に行く。4階の410号、部屋に行ってびっくり、オートロックじゃないんですよ、今時。閉め出されることはないからいいけど、ちょっとなあ。部屋に入るとまたびっくり。ベットのスポットライトが頭の部分が外れてブラブラしてるよ。机に電灯がないよ。ユニットバス狭いよ。これは完全に外したよ。まあ、ゴールデンウィークに前日で予約できるホテルなんだからこんなもんだろうけどさあ。それにしても外した。

 まあ、チェックインしてしまったから今更どうしようもないね。荷物整理してツーリングの記録を取っていたら晩飯の時間になった。昼が少なかったので早めにしてもらったのだ。口のなかの傷も出血が止まったようなのでほっと一安心。では食堂へいざ。

 大広間ではOB会が盛り上がっていた。その隣の中広間で食事が用意されていた。仲居さんが気がついて席に案内してくれた。てきぱきと料理の準備をしてくれる。鍋はほたるいかのしゃぶしゃぶですぜお客さん! ほたるいか、話に聞いたことはあるが食うのは初めてだ。いやがおうにも期待に胸は膨らむのであった。沸騰したらイカを入れてくださいというので、それまでは刺身を食ってご飯1杯目平らげてしまった。かってにお代わりをして、何回も行くのは嫌なのでぐいぐいと多くつけた。そしてまだかなーと鍋を見たら仲居さんが颯爽と現れて、あ、いいね、いれますからと全部やってくれた。ホタルイカは4杯で、なんと、皆さん知ってました? ほたるいかってあの小さいので大人なんですよ。子供だと思ってた。味付き汁にホタルイカを入れると、細かい脚がふわーっと広がって色が赤っぽくなった。さあどうぞと言われて食った。

 うまい。

 思った以上に柔らかくとろりとした食感、うーんマンダム。

 あっという間に4杯食ってしまった。後は普通の野菜などを煮込み、ごゆっくり食べてくださいということで、おかわりしてくださいねということで、いや、もうしてるんですけど。酢の物、ホタルイカの佃煮みたいなの、茶碗蒸し、煮物、おつゆを食って、最後に鍋を食った。うまかった。

 食ったらまだ時間があるので駅前にお土産を買いに行った。駅前は結構都会だった。あやしげな男性やら女性やら、ルーズソックスゾウ脚の女子高生やら、ケバいねーちゃんやらいっぱいいた。で、デパートの名店街で土産物を物色したが、良いのがないので他をあたってみることにした。駅特選街に行ったら結構いろいろあった。なるべくかさばらなくて形が壊れにくくて安くて甘いものが良かったのでミニ羊羹にした。

 部屋に戻って風呂に入った。狭い。このホテル、飯は良かったが施設はまるっきり駄目駄目だな。風呂から出てテレビを見て、他にすることもないのでひたすらチャンネルサーフィンして寝た。

 5月1日(日)

 7時に起きた。空は晴れてはいないが雨が降る様子もなかった。天気予報は夕方から雨だ。うまく行けば雨の前に帰れるな。シャワーを浴びて歯を磨き目が覚めた。テレビで気象情報をチェックすると午後から曇りで夕方から雨のまま変らずだった。朝食に1階まで降りた。フロントの向かいににある和食レストランで朝食をとる。まあ、並の朝食だった。おかわりした。ホールには昨日のテニス部OB会の人たちが浴衣のままぐったりしていた。よっぽど飲んだんだろうなあ。部屋に戻り、荷物を整理して忘れ物のないように出た。8時20分頃チェックアウト、出発だ。

 ホテルを後に、まずは国道41号線を目指す。午前中は天気もいいようなので、富山県内で温泉に寄ってみたいと考えたが、あっという間に41号線に出て、温泉の看板もあったが、時間が早いのでやってないだろうしと思いつつ、順調に走ると1時間後には神岡に到達していた。ノーベル賞受賞のスーパーカミオカンデのある神岡なんだけど、このスーパーカミオカンデってのがなんなのか、いまだに良くわからないのは私だけでしょうか。

 道路脇にバイクを止めて考える。天候のことを配慮すると、このまま走って1時から2時くらいに家に着くのが良いんだが、せっかくここまで来たのに、とんぼ返りではどうにも面白くない。かといって、このまま日帰りツーリングの圏内で止まっても面白くない。だいたい、神岡がすでに日帰り圏内だし。

 戻るか。地図を確認して、飛騨宮川に行くことにした。温泉と漫画王国があるらしい。むかしニュースで見たような記憶がある漫画王国、寄ってみよう。ということで、バイクをUターンさせて41号を北上する。が、思ったよりかなり戻った。30分近く戻って、宮川への分岐点に到達した。『漫画王国まで行けます』と、なにやら心配な看板が立っていたが、気にしないで走って行く。マップルによると、かなりの山道のようなので気合いを入れて行くぞと思ったら、すごい整備された大きな広い道だった。一体何があったんだ! その謎は追々解けるのだが、とにかくびっくりしたのはその直後に出現した巨大なトンネルだ。まるでインデペンデンスデイの核シェルターみたいだ。こんな300番台の高国道の、交通量などたかが知れている道になんでこんなでかいトンネルがあるのだ! 

完結編につづく

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