これからわたくしがお話しすることは実際に120年前に起こった、それはそれは恐ろしい話でなのでございます。あまりの恐ろしさに、このお話を聞いた者たちの血は凍りつき、顔面蒼白、歯の根も合わず震えも止まらず、下半身は麻痺しておしっこを漏らし、しまいに腰が抜けるのです。そう、あれは、今となっては昔の話、年号が元禄に変わって間もない頃の事でございます。尾張の国に、ひとりの小僧がおりました。それはそれはネクラな小僧なので、部屋に閉じこもってはPINK FLOYDとかKING CRIMSONとか暗ーいロックばっかり聞いていたのでございます。

ある日の事でございます。あまりにネクラぶりを心配した和尚が小僧にお使いを言いつけました。山を越えて隣村まで文を届けるのでございます。

「よいか小僧」

「はい和尚様」

「隣村まで行くのに必ず毎日ツーレポを書くのじゃぞ」

「はい和尚様、でも、なぜツーレポをつけないといけないのですか」

「それはな、恐ろしい妖怪が現れるからじゃ」

「妖怪ですか」

「そうじゃ、妖怪陀怪真様じゃ、ツーレポを忘れると現れるのじゃ。無類の温泉好きでのう、温泉を掘っては、その湯に人間を誘ってチンボツさせる恐ろしい妖怪なのじゃ」

「何と恐ろしい妖怪でしょう」

「そうじゃ、くれぐれも気をつけるのじゃぞ」

「はい和尚様、では行って参ります」

「まて、これを持ってゆけ」

和尚様が取り出したのは3枚のお札でございます。

「このお札を持ってゆけ」

「これは」

「このお札には英雄の精霊が封じ込めてあるのじゃ」

「英雄の精霊」

「そうじゃ、いざいう時に呪文を唱えると封印が解かれて精霊が出現するのじゃ」

「その呪文とは何ですか」

「それは”必殺UHSS”じゃ」

和尚はポーズを決めて言うのでございます。

「必殺UHSS!」

「そうじゃ、忘れるでないぞ」

こうして3枚のお札を持って小僧は旅立ったのでございます。小僧ははじめはまじめにツーレポをつけていたのですが、ある日に立ち寄ったカフェで食べたモンブランケーキがあまりにもおいしかったので、次の日もランチを食いに行ってその日は遂にめんどくさいのでツーレポを書かなかったのでございます。小僧は、まあいいや1日くらい大丈夫だろう、と、たかをくくっていたのでございます。それがあの忌まわしく恐ろしい事件を起こす事になるとはつゆとも知らず・・・。ある日、小僧が起きると、辺りの様子がおかしいのに気がつきました。何かとても不気味な妖気が漂い、何かが迫ってくる気配を感じたのでございます。そして、それは遂に小僧の前に出現したのでございます。

「うわーっ、あ、あれは!」

小僧は叫び声を上げました。小僧の目の前に、巨大な黒煙と共に出現したのは、空を覆い尽くさんばかりに羽を広げる黒い鳥だったのでございます。まるで漆黒の闇を思わせる真っ黒な身体に、光り輝く眼が小僧を睨みすえます。そして、その尾には、家財道具一式が熊本城に天守閣の如く積み上げられていたのでございます。

「あ、あの過積載、まさしく妖怪陀怪真様だ!」

小僧はあまりの恐ろしさに血も凍り顔面蒼白歯の根も合わず下半身が麻痺してきました。妖怪陀怪真様が吼えました。

「ぐわっはっはっはっは! 小僧! ツーレポをなぜ書かぬ!」「だってツーリング行ってないもーん」「許さんぞ、小僧!」

小僧は脱兎の如く逃げ出しました。

「逃げられると思うたか!」

黒鳥が唸り声を上げエグゾーストが高らかに響くはずだったのでございます。プス。

「あ、いかん、バッテリーが上がってしもた」

陀怪真様は焦ったのでございます

「やっぱ乗ってないからなー、今月500キロ走ったから良いかと思ったんだけどさー」

陀怪真様は急いでラジエーターから液漏れしてるフォレスターにブースターケーブルをつないでセルを廻します

「ええい、早くかからんかエンジン」

小僧はその間に必死に逃げました。やがてエンジンがかかり、黒鳥が蘇ったのでございます。小僧はもはやこれまでと、お札を出しました。

「これを使うしかないぞ」

おふたを投げて呪文を唱えたのでございます。

「必殺UHSS!」

するとお札からもうもうと煙が上がり、なかから精霊が姿を現したのでございます。その姿は、青いスーツに赤いマントまさしく、それは、ちゃっちゃちゃーん、ちゃらららちゃちゃーん! ちゃちゃちゃちゃーちゃん、ちゃらららーんでけでけでん(スーパーマンのテーマ)そうです、すーぱーまんまさしくそれはすーぱーまん「あれ?」しかし、よく見ると胸のマークが違います。

「SじゃなくてTだぞ、これは」

「その通り!」

出現したすーぱーまんは朗らかに答えたのでございます。

「私はティーパーマン! 得意技は漢前キーック! 漢前パーンチ!」

ひとりで決めているのでございます。

「小僧よ、私が来たからには大丈夫だ」

「妖怪陀怪真様に追われているのです、助けて下さい」

「まかせたまえ、妖怪など朝飯前」

ティーパーマンは颯爽と外に出ました。ぴゅーっと木枯らしが吹き寒さがしみるのでございます。

「さぶうっつ!」

ティーパーマンは縮こまってしまいました。

「なんちゅう寒っ、こらあかんわ、寒すぎだがや。今日はクシタニウィンドストッパーインナーパンツ履いとらんし、あかん」

「なんですと?」

「だいたい寒い時期は冬眠してるのになんで起きちまったんだろ、もうやめた帰る」

「えー、ちょっと待ってください」

「いや、こんな寒くては無理帰る。帰りに豊橋でカレーうどん食ってあたっまてこ」

ティーパーマンはワイバーンのエグゾーストを響かせて去ってしまいました。そんな事をしているうちに、陀怪真様が追いついてきたのでございます。

「小僧!待て待たんか!」

小僧は絶体絶命、その時でございます。

「うおおお、何という事だ!」

尾の家財道具一式が崩れてしまいました。どうやらトップケースが壊れてしまったようです。

「しまったー仕方がない、ドカティから取り寄せよう」

今のうちにと小僧は慌てて走り出しました。そして今度こそともう1枚のお札を出したのでございます。

「必殺UHSS!」

すると、閃光とともに巨大な黒い鳥が出現しました。あれはまさしく、陀怪真様と同じ黒鳥ではありませんか。しかし、こちらの黒鳥は家財道具は積んでおらず、長いアンテナが立ってます。脚には防寒カバーがかかっており、側面にはなぜがミッキーのイラストが書かれています

「小僧、オレを呼んだのは貴様か」

「はい、助けて下さい、妖怪陀怪真様に追われているのです」

「たわいもない、ブッチギってやるぜ、乗れ」

小僧は黒鳥に乗りました。コクピットは無線とかナビとかいろいろ付いてて賑やかです。黒鳥はものすごいスピートで飛ぶのでございます。ドカティのトップケースに取り替えた陀怪真様の姿はあっという間に米粒になってしまいました。

「やった、これで逃げ切れるぞ」

小僧の心の中にファンファーレが鳴り響いたのでございます。しかし、急ブレーキとともに、黒鳥は止まってしまいました「

なんだどうしたんだ」

「わりい、ちょっとソフトクリーム買ってくる」

「ソフトクリームって、この寒いのにアンタはアホですか」

「いやー、ソフトクリームが売ってるとどうしても買っちゃうんだよねー」

黒鳥は嬉々としてソフトクリームを食っているのでございます。

「うーちべてーおもったよりずっしり重いね」

そんな事をしているうちに、陀怪真様が追いついてきました。小僧はひとりで逃げるしかありません。必至に走り出しながら、最後のお札を投げました。

「必殺USS!」

爆発音とともに現れたたのはこたつでした。

「し、しまったぁ〜二度寝してもた・・・あわわわわ・・・早よ準備せなぁ〜」

「あのー」

「と、取り敢えず、走ってくるわ!!!」

そういうと精霊は走り去ってしまいました。

「おい、おっさん! 何しに出てきたんや!」

小僧は、しかし、なんとかそれでも家まで戻って来る事ができたのでございます。

「和尚様!」

「どうしたのじゃ小僧」

「妖怪陀怪真様に追われているのです」

「なんということじゃ、早く隠れるのじゃ」

小僧を隠してから、和尚は妖怪陀怪真様に立ち向かったのでございます。

「ここに小僧が来たであろう!」

「愚僧はてんでわかりませぬなあ」

「おのれ、とぼけておるとタダでは済まんぞ」

「まあ、それよりも長旅でお疲れでしょうから、どうぞ温泉にでも入ってゆっくりしなされ」

「なに、温泉とな」

陀怪真様は一気に機嫌が良くなった

「御主も相当の悪党よのう」

「いえいえ、お代官様にはかないませんよ」

「ぶわっはっはっは」

陀怪真様は温泉に案内されると、そこにはもうもうと湯気を上げる温泉が、しかし

「うっ、こ、これは、星川大湯」

「さよう間違いござらん」

「うぬはこの湯に浸かれと申すか、この陀怪真様が熱湯を苦手と知っての狼藉か」

「まさか加水しようなんて、湯道に外れたシャドーボクサー、いや違った邪道行為に走ろうなどとは思っちゃいますまいな?」

その言葉に陀怪真様はあとずさり

「おぬし、何ものだ! その物言いは」

「ふぉーっつふぉっふぉっふぉっふぉ!」

「老師様!」

「その通りじゃ! 愚僧は世を忍ぶ仮の姿、老師様じゃよ」

「なにゆえこんなところに」

「黙れ! そんな事よりおのれの未熟さを知るがよい! この程度の熱湯に入れずして何が妖怪陀怪真様じゃ!」

「未熟者でございましたあ〜」

陀怪真様はひれ伏したのでございます。こうして陀怪真様は心を入替え、温泉道に精進し、ついに飯坂温泉にも笑顔で入る事ができたのでございます。めでたしめでたし。

 

<2011年1月29日「博士は無料の残雪展望湯の山」より転載>