先週のツーレポを見たサイト訪問者諸君の中には首を傾げた方もいるのではないだろうか。そう、あの伊良湖のランチバイキング会場で起きたあの事件、あの恐ろしい事件について、何も触れていないのはどういうことなのか。編集部もこの事態は重く受け止め、独自に調査を開始した。調査は難航を極めたが、あくなき探究心と執拗な捜査で、ついに封印された報告書を発見したのだ。そこには、あの日起きた恐ろしい時間の全貌が事細かく書かれていたのだった‥‥。

事件は1週間前に遡る。その当時、伊良湖岬周辺ではアサリが消失する事件が頻繁に発生していた。伊良湖と言えば焼きアサリと言われる名物である。その観光の目玉が消失する由々しき事態に、観光局も困り果てていた。警察に訴えても全くアテにならなかった。観光商業組合やホテルの関係者から突き上げを食らった首脳部は、ついに重い腰を上げて、この事件の捜査をある人物に依頼したのであった。その人物とは、そう、その名を知らぬものは世界中にいないと言っても過言ではないであろう、不滅の名探偵シャーロック・ショームズである。


「ショームズ、実に奇怪な事件だが、解決の糸口はあるのか」

「優秀な助手のヒガソン君、心配は無用だ。私なすでにこの事件の全貌が見えつつある」

「それは素晴らしい説明してくれ」

「これを見たまえ、ヒガソン君」

「これは古い新聞記事だ。なになに、『牡蠣食い放題で100個食った』『ステーキ食い放題で食いまくった』なんだこれ、これがの関係があるんだ」

「ヒガソン君、一見なんの関係もなさそうなこの2つの事件が、今回のアサリ消失と大きく関係しているのだよ」

「牡蠣とステーキの食い放題がか」

「その通り、私はすでにこの事件の現場に行き、ある男の情報をつかんだのだ」

「それは何なんだ」

「その男の情報をここで確かなものにしよう」

「どこへ行くんだ」

「バイキングのレストラン、そこでウエイトレスに聞き込みをするのだ」

「先日、ここへ大勢のライダーが押し掛けたそうですが」

「ええ、押し掛けてきました。私、びっくりして2000円を200円って言い間違えちゃったんです」

「そうですか。それはそうでしょうなあ、きたなこーい格好のおっさんがいっぱいくりゃ誰でもそう思いますよ、ってほっとけ」

「ショームズ、なぜカメラを出すんだ」

「いや別に」

「現場写真を撮る振りをしてねーちゃんを撮影するのは止めたまえ、ショームズ」

「何を言ってるんだ、これは捜査の一環だヒガソン君」

「それはそうと、さっきの話はどうなった」

「そうだった、この写真を見てください、その時にこの男はいませんでしたか」

「あ、いました。ハイ覚えてます、この人です」

「やはりそうか。ヒガソン君、私の読みは当たった」

「ショームズ、どういうことだ、この男は一体誰なんだ」

「この男こそ、私の宿敵さ」

「宿敵、ということは、この男」

「その通り、この男こそ、悪の天才マルアーティ教授!」

「この男が、あのマルアーティ教授なのか!」

「そうさ。この事件を陰で糸を引いている真犯人、それがマルアーティ教授だ」

「マルアーティ教授、天才数学者にして天才犯罪者、21歳で論文『AZで悪路走破する力学』を発表して学会を揺るがし、その陰で数々の完全犯罪に手を染める、まさに悪の天才」

「その通り、私の宿敵だ。今度こそ決着をつける」

「一体どうやって決着をつけるんだ」

「私が直接マルアーティ教授に会うのさ」

「どうやって」

「簡単だよ、ヒガソン君、またマルアーティ教授にここのバイキングに来てもらうのだ」

「なるほど」

「マルアーティはハンドルネーム『マル』でネットに暗躍してる。我々も、『ショー』と『ヒガ』と名乗って彼に接近する、そして、バイキングをもう一度開催させるのさ」

「よし、じゃあ、準備を始めよう」


こうして、悪の天才マルアーティ教授と、不滅の名探偵ショームズとの対決の日が迫ってきたのであった。そして、計画通り、バイキングの会場でアサリの食い放題となったのであった。


「よし、ヒガソン君、焼きアサリを食いまくるのだ」

「ショームズ、ちょっと意味が分からないのだが、なぜ焼きアサリを食いまくらなきゃならんのだ」

「マルアーティは何らかの目的でアサリを集めている。その目の前で焼きアサリを食われてみろ、いかに天才でも冷静でいられるはずが無い、どこかでぼろを出すに違いない」

「なるほど、証拠をいっさい残さないというマルアーティでもぼろを出すかも知れん、さすがだなショームズ、よし大げさに食いまくろう」

「ヒガさんダメだよ焼きアサリばっかり食ったら〜」

「ショーさん、何を言うんだよ〜、山があったら登る、焼きアサリがあったら食う、それがオレのやり方だよ〜」

「まだおかわりすんのかよ〜」

「デザートの後の口直しに焼きアサリだよ〜」

そして、作戦通り、マルアーティ教授が動いた。

「焼きアサリを食い過ぎだよ」

「だよね、食い過ぎだよね」

「絶対食い過ぎだ」

「でも、食い過ぎると何か困ることでもあるのかなあ」

「いや、別に困ることなんかないけど」

「そうかな、困るんじゃないのか」

「それはどういう意味だ」

「あちこちでアサリを集めてるみたいだからさ」

「‥‥」

「どうやら図星のようだな、マルさん、いや、こう呼んだ方がいいかな、マルアーティ教授!」

「‥‥フッ‥‥フッ、フフフフフフ」

「何がおかしいんだ」

「フフフフハハハハハ! 私の正体をばらして鬼の首を取ったつもりのようだが、フフフハハハハハ、そんなことはとっくにわかっていたさ」

「なんだと」

「ついでに君たちのことも十分わかっている。不滅の名探偵シャーロック・ショームズ君、そしてその優秀な助手、ドクター・ジョン・ヒガソンだな」

「さすがだな、すでに我々のことも調査済みか」

「それだけではないぞ。今回の君たちの計画はすべてぐるっとまるっとお見通しだ」

「それはちょっと元ネタが違うが」

「ほっとけ」

「我々の計画のどこがお見通しなんだ」

「その前に、なぜ私が悪のマルアーティとわかったのだ?」

「簡単なことだ。バイクを見ればわかる」

「バイクを見れば?」

「そう、Kawasakiのバイクは、むかしからワルが乗るものと決まってるからな」

「フフフ、そうか、ついうっかりしていた」

「しかし、おまえもかつては優等生のバイク、HONDAに乗っていた」

「そういう時代もあったな」

「ダークサイドに堕ちた愚か者め」

「Kawasakiはダークサイドかい」

「それより、話を戻せ」

「そうだったな、お前らのやってる事はまるっとぐるっとお見通しだ! まず最初に、そこにいるミスター・ケーイチがわざと遅刻する。これにより、ランチタイムを自然に後ろ倒して、本来、ランチにするはずだった店に入れないように設定した。さらに、そこで私がiPhoneで次のランチ店を検索するのをさりげなく妨害した。『走って行けば適当に見つかる』などといかにもライダーっぽいことを言ってな。仕上げは、ドクター・ヒガソンが先頭で走って、さも偶然見つけたようにこの伊良湖ホテルに進路を取る。そして、いかにも予定外に初めてきました、と言わんばかりに入口を行き過ぎてUターンする、なかなか芸が細かいな」

「く、そこまで見抜かれていたとは」

「まだあるぞ。バイキングになってから、そこにいるミスター・ケーンがわざとらしく焼きアサリの殻をがじっとやってくれた。これは私の焼きアサリに対する牽制だな。そして、初めはパンばかり食ってたミスター・ユウもこれみよがしに焼きアサリを食い始めた。これも牽制だろう。ミスター・ケーイチが山盛りのわらび餅を持ってきて食ってるのは」

「ああ、あれはただの好物だ、気にせんでくれ」

「そうだろうな、そんなことだろうと思った」

「まるっとお見通しなら話は早い、マルアーティ教授、いったい何を企んでいるんだ。 アサリを集めて何をしでかす気だ」

「フフフ、さすがの名探偵もわからないようだな」

「そ、そんなことはない、わかるよ、わかるけど」

「ショームズ、君はウナギの養殖がどうやって行われるか知っているか」

「ウナギだと、そんなものがどう関係する」

「ウナギの養殖は2月頃に川を遡上するシラスウナギを捕獲してそれを人工的な環境で飼育する。知っているだろうが、シラスウナギの生体は謎が多い。そして、近年その捕獲量は激減している」

「それがどうした」

「捕獲量が激減するとどうなるかわかるかね、ショームズ」

「当然価格は高騰する」

「それだよ、ショームズ。私はそれをアサリで人為的に再現する試みに非常に興味を持ったのだ」

「アサリ消失でアサリの価格を高騰させる気か」

「さすがだな、ショームズ、この説明でそこまで見抜いたのは君が初めてだ」

「アサリで莫大な富を得て、それで何をしようというのだ」

「決まっているだろう、まず、マツダアテンザスポーツワゴン(2.3L)中古よりでかい車を買う」

「なんだと、そんなことが許されると思っているのか」

「あ、まちがえた、世界征服だ、世界征服をするのだ」

「なんだと、そんなことが許されると思っているのか」

「莫大な富はあらゆることを可能にするのだ。アダムスミスもカールマルクスもミルトンフリードマンも、結局金さえあれば何でも出来ると言いたかったのだ、莫大な富で私は神になるのだ」

「なんだと、そんなことが許されると思っているのか」

「ショームズ、私が君を生かしておいたのは君が尊敬に値する人物だからだ。ツーレポのアップは早いし面白いし。だが、私の邪魔をするとなると話は別だ。君を排除することになる。そんな事態は可能なら回避したいものだがな」

「マルアーティ教授、キサマのその歪んだ計画は私が命に代えて阻止する」

「私は証拠を残さない、なぜなら私は悪の天才だからだ。どうやって阻止する?」

「言ったはずだ、命に代えてとな!」

「ショームズ!」

ショームズは一瞬の隙をついてマルアーティ教授に飛びかかると、抵抗するマルアーティ教授にしがみつき、じりじりと崖の淵へ、そして、ラインバッハの滝の底へと落ちて行った‥‥。

「ショームーーーーーズ!」

ヒガソンは叫んだが、すでにふたりの姿は轟々と音を立てて煙る巨大な滝の飛沫の中で見えなくなってしまった。

「ショームズ、そんな、そんなバカな、こんなことって‥‥」

ヒガソンは呆然と眼下の滝を見下ろしていた。


こうして、伊良湖アサリ消失事件は劇的な幕切れとなった。ショームズの捨て身の作戦で、悪の天才マルアーティ教授の悪巧みは潰えたのであった。


「ちょっと、ここ伊良湖なんですけど、滝なんてないですけど」

「しーっ、黙ってりゃわからないって」


以上が発見された報告書のすべてだ。この報告書は現在も、連邦捜査局FBIの本部ビル地下、通称Xファイル管理部に保管されている。これが事実かどうかの公式な発表はまだない。あとはサイト訪問者諸君の判断に任せるしかないのだ。

<2012年4月1日「またまた富吉温泉の掛け流しと飛島」より転載>